「今日は何日だっけ?」
眠りから覚めた僕は誰に言うともなくこう言って起き上がった。
コンクリートの壁は意外と音が響くというのはどうやら本当らしかった。
その向こう側では、弟の友達がかすれた声でビジュアル系アーティストの歌を歌っている。
これは世界中のあらゆる嫌な起こされ方のうちの3つには入ると思う(僕はなんて幸せ者なんだろう)。
「と言う事はウチの家庭情勢も丸見えな訳か」と思うと、いつとも知れない強制退去の日が急に近づいて来る気がした。
僕は台所へ行って食べ物を探した。ウチは最近、自分のことは自分でする家庭になったらしかった。
お湯を沸かしてカップめんを食べた。味はしなかった。
このリビングにある壁一面に広がっているはずの西向きの窓(たぶんこのマンションのウリの1つになっているんだと思う)は、その3分の1を積み上げられた何かでふさがれている。
しかし、それでも太陽はその調子外れな明るさで部屋の中を照らしている。
僕はその光線を30秒ほど見てから自分の部屋に帰った。
勉強をしようにも集中できない。頭の中は短絡的な考えで満たされていた。馬鹿だと思いながらも、たやすく人を支配してしまう怒りと戦っていた。
ゆっくりと、しかし、確実にそれが自分の身を覆っていくのがわかった。勝ち目はないように思われた。
第一、僕はここ数日のいろいろなことで肉体的にも精神的にも参っていたのだ。
それでもまともな内に“これ”をどうにかしなければならない。
僕は思考を止めた。同時に覆いがゆるみ、コンクリートを隔てた雑音は僕を通り抜けた。
今はどうしても負けてはいけない。自分にも“これ”にも。そう思ったが早いか、僕は布団に倒れこんだ。

それが“必ず解決しなくてはならないもの”であっても、気づいた時には、そのことを忘れてしまっている。
そのために、僕はメモを取るのです。