何でもかんでも好きと言い過ぎて、何が本当に好きなのかわからなくなってしまった。
たくさんのものを愛せた。その記憶も今では曖昧になっている。

木に登るのが好きだった。太い幹の力強さ、日を浴びたそれの温かさ、手についた木のにおいも好きだった。
そこから見渡せる世界はちょっとメマイがしそうなほど広くて、全てが新しかった。
雨が降ってきても、その木の葉に囲まれた空間にいれば安心だった。世界はまた違っていた。

いつの間にか木の枝は切り落とされ、やがて木も消えた。代わりに冷たいコンクリートが地面を覆った。
今では木の記憶はほとんどない。