家族はいつ始まりいつ終わるのだろうか?これはなかなか断言し辛い。
自己を中心に据えて考えてみると、始まりは両親の婚約であり、終わりは自らが外に新たな家族を持つとき、とでも言えようか。
してみると、以下に語る家族は如何であろう?一見するところかなり怪しいが、私の判断はさて置き…。

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玄関を開けると生温い暗闇が出迎える。足元に散乱する靴を踏み踏みライトをつける。さっそくため息を一つ。
この家族の長男であるDは何日かぶりにどこからか帰ってきた。すぐさま自分の部屋に行きベッドの上の所定の位置に重たそうな鞄を降ろす。そして鞄から洗濯物を取り出し洗濯機にかけに行く。一連の動きがとてもシステマティックだ。

朝に愛する彼女とつつましく好ましい朝食をとったきりなので腹が減ったのだろうか。キッチンへ向かう。彼の外された腕時計(成人祝いに母親からもらったものだ)は正午近くを指している。明かりのスイッチを入れると片手で目を覆った。実はさっきから何度もこうしている。光がいちいち眩し過ぎるのだ。
まずはため息、そして洗い物を始める。しばらく無心で続けていたが、いきなり誰に言うともなく何事かを叫んだ。声は瞬時にこの家の空気に吸収される。
洗い物が終わり、ようやく料理に取り掛かる。心が無い訳ではないが、格別何と言うこともないと言った感じ、要するに男の料理と言うやつを作っている…。

時間がかかりそうなので私が知っていることをいくつか補足をしよう。
ここは都心に程近いベッドタウンにある閑静な住宅街。Dが入った玄関はいくつかあるマンションのいくつかある3LDKの内の一つのだ。元々住んでいた地区の治安が良くなかったし借家だったので、Dの父親が思い切って新築分譲を買ったのだ。
Dの部屋と彼の弟Kの部屋、もう一つは父親の部屋になっていて母親の部屋は無かったが、Kが家を出て行ったので母親がそこに居たりする。電気がよくつくのはDの部屋と父親の部屋で、Kの部屋はいつも暗い。この家の電気代は独り暮らしより少ないくらいだ。
Dの部屋と父親の部屋は似ている。机、本棚、ベッド、コンピューター、オーディオ機器、趣味雑貨(Dはギター、父親は釣り道具)なんかがそれぞれの秩序の下に並んでいる。Kの部屋は物が散乱して恐らく本人ですらどこに何があるのかわからなくなっている。どちらもどちらも長年変わる物もあれば変わらない“もの”もある。

(続く)